鮎魚醤は、鮎と塩を原料に製造された魚醤。醤油にはない鮎独特の風味と味わいを持つ、非常に興味深い調味料です。
いくつかのメーカーが製造していますが、特に有名なのは大分県の調味料メーカー「まるはら」が製造する一本。
200mlにも拘わらず2,000円に近い価格が設定されていますが、どんな味がするのでしょうか? 価格に見合うのでしょうか? どの料理に使えるのでしょうか?
この記事では、実際に鮎魚醤を味見してみた結果からそれらの疑問にお答えします。
このタレどんなタレ? – 強い塩と鮎の味、そして組み合わせやすいシンプルさが特徴!
「まるはら」の鮎魚醤を開くと、ふわりと鮎の香りが漂います。
この香りのイメージは、まさしく醤油をつけた鮎の刺身といったところ。
一般に魚醤というと独特の臭みがあるイメージがですが、全くそんなことはなく、食欲をかきたてる新鮮な香りです。
色は醤油に似ていますが、少しばかり薄く、透明感のあるダークカラー。
味見をしてみると、ぴりりとした刺激が舌を襲いました。
通常の醤油よりも強い塩分を感じます。あくまで体感ではありますが、しょっぱさは1.3倍くらいでしょうか。
塩の刺激を感じた後は、ゆったりと鮎の風味が口内に広がります。
しょっぱさと風味がかなり強く味が濃いため、アクセントや隠し味に向いているでしょう。一方で、もともと味のハッキリしている料理や、魚に合わない料理(オムレツなど)にかけてしまうと味同士のケンカが起こってしまいそうです。
味は濃いものの、醤油の塩味と鮎の風味しかないため単調な印象で、コクがないと言えます。しかしながら、コクがないこと自体は単なるマイナスポイントではありません。単調な味であるということは、混ぜ合わせたときに味が活きるということです。
どんなタレと混ぜ合わせてもOK……なんてことはありませんが、組み合わせを知っておくとかなり料理の幅が広がりますよ。
なぜ塩味と風味しかないのか? その理由はメーカーこだわりの製造方法にあった!
この鮎魚醤、重ねて言いますが塩と鮎の味しかしません。
それもそのはずで、なんと原材料は鮎と食塩だけなのです。
このたった2種類の原材料を発酵させることで、この製品は完成します。雑味のない、純粋な塩と鮎の味がする理由はここにありました。
魚醤に付き物の臭みがないのもまた、原材料が理由です。
一般に魚醤の原材料にはイワシなどの海水魚が使われることが多く、これらに付着する微生物は魚醤製造時も生き残ってしまうので、臭みを生み出すことになるのです。
しかし、鮎は淡水魚。淡水の微生物は、海に住む微生物と異なり、製造時に添加される塩に耐えることができません。臭みを生み出す原因を排除できるので、鮎魚醤には豊かな魚の風味だけが残るのです。
ちなみに、メーカーの「まるはら」は大分県の調味料メーカー。醤油、味噌、魚醤を製造しています。
規格外だったり、傷がついてしまって出荷できない状態の鮎を有効活用したいと考えた結果、この鮎魚醤が生まれたようです。
そのため鮎魚醤自体歴史が浅く、販売が開始されたのは2004年のこと。美味しさが認められ、2009年には「まるはら」の工場が新設されて製造量が年間20トンになりました。結果として、規格外の鮎だけでは製造を賄えなくなったんだとか。
価格に見合うだけの味はするの?
200mlに対して約2,000円。キッコーマンのしぼりたて生しょうゆが200mlで約200円であることを考えると、その差は10倍にも及びます。
しかしながら、2,000円をかける価値はあると断言できます。その理由は、味はもちろんのこと醤油にはない使い道があるため。
味や見た目が似ているためつい醤油と比べがちですが、魚醤には魚醤の使い道があり、醤油にはできない活躍をしてくれます。もちろん醤油ほどの汎用性はありませんが、2,000円もする調味料を毎日料理に使ってはちょっともったいないので、醤油と同レベルの汎用性は求めなくて良いでしょう。なお、醤油ほどではないというだけで、鮎魚醤にも十分な汎用性があります。
使い方については次項で説明していきますね。
ちなみに、魚醤というだけなら他にも多数の製品がありますが、特に鮎を使った本商品には先述の通り独特の特徴が備わっていますので、高額であっても十分買ってみる価値はありますよ。
おすすめのタレ方
たったふたつの原材料を用いて、純粋に鮎の味が抽出された「まるはら」の鮎魚醤。特徴は「強い塩味」と「鮎の風味」、そして「単調な味(=コクはないが組み合わせやすい)」の3つです。
これらを踏まえて、おすすめの使い方を紹介していきます。
単につける – 刺身におすすめ!
まずは調味料の一般的な使い方である、「単につける」という方法。この使い方をするのであれば、ぜひ刺身で試してみてください。
塩味と風味だけのシンプルさが、素材の味と抜群にマッチします。特に相性の良い刺身は、少し臭みやえぐみのあるもの。鮎の風味がこれらの嫌な味を打ち消してくれます。
さらに、切ってからちょっと時間が経ってしまった刺身とも相性抜群。新鮮な鮎の風味が魚醤の中に凝縮されているので、刺身の鮮度が復活したような気分を味わえます。もちろん、新鮮で臭みのない刺身に使っても美味しいですよ。
「刺身醤油は甘いものが良い!」という方には、甘い刺身醤油と鮎魚醤を混ぜて使ってみることをおすすめします。
味が単調な分、混ぜ合わせても美味しさは損なわれません。
なお、普通の醤油と比べてもかなり塩分が強いため、刺身以外のものに対してつけた時の評価は人によって異なります。
また、「つける」ではなく「かける(丼のようなものに)」ときは気を付けましょう。醤油感覚でかけてしまうと味が濃すぎて食べられなくなるかもしれません。
魚介類を焼く時の調味料に!
塩と鮎しか使っていませんから、刺身に使うと素材の味を強く引き立てることができました。それと同様、魚介類を焼く時に使っても美味しさを楽しめます。
魚を塩焼きにするとき、食塩の代わりに鮎魚醤をかけてみてください。強い塩分が食塩の役目を果たした上で、鮎の風味がほのかに香るはずです。
隠し味に! イタリアンにも相性抜群!?
つけたり焼いたりといった使い方は素材の味を活かす日本料理に合ったものですが、鮎魚醤は海外の料理とも相性抜群。おすすめなのはイタリアンです。パスタソースを作るときにちょっと忍ばせておくと、土台を支える塩味とかすかな鮎の風味をソースの中に感じられます。
ソースを作らずとも、オリーブオイルと混ぜ合わせるだけで本当においしくなります。鮎魚醤は塩分が強いため、単体で味見すると尖った印象があるのですが、オリーブオイルと混ざるとマイルドになり、素晴らしいまろやかさを演出します。混ぜる時は1(鮎魚醤):2(オリーブオイル)くらいがおすすめです。あまりに相性が良くて、心底驚いてしまいました。
イタリアン以外にも、チャーハンのアクセントにもなりますね。
オイスターソースといっしょに肉野菜炒めの味付けにしても美味しそうです。
おすすめ料理・レシピ
鮎魚醤は食のジャンルを問わず活躍します。今回は、日本料理とイタリアンから一品ずつご紹介します。
ブリの漬け焼き
(画像はイメージです)
こちらは鮎魚醤を和食テイストで使いたいときのレシピです。日本酒や白米との相性が抜群ですよ。
材料
- ブリ 一切れ
- みりん 大さじ1杯☆
- 日本酒 大さじ1杯☆
- 鮎魚醤 大さじ1杯☆
作り方
- ボウルに☆の調味料を入れて混ぜ、ブリの切り身を20~30分漬ける。
- フライパンに油を引き、ブリの切り身を強火にかけ、両面に焼き色をつける。
- 焼き色がついたら、残った調味料(☆をまぜたもの)をブリの切り身にかけ、照りが出るまで焼く。
鮎魚醤を堪能するシンプルパスタ
鮎魚醤とオリーブオイルの相性をとことん味わうシンプルパスタ。茹で、混ぜ、和えるだけですので、これ以上ないくらいに簡単です。調理時間は約10分といったところ。
材料
- パスタ 一人前
- 鮎魚醤 大さじ 1杯
- オリーブオイル 大さじ2杯
- にんにく 適量
※その他、好みの調味料を加えるとなお良いです。おすすめは唐辛子、バター、レモン汁、チーズなど。
作り方
- パスタを茹でる。(※茹でた後は火を通さないので、十分柔らかくなるまで茹でてください)
- 鮎魚醤、オリーブオイル、にんにくをボウルで混ぜ合わせ、ソースを作る。
- 茹で上がったパスタをボウルに入れ、和える。オイルの乳化のため、茹で汁を適量追加。
- お皿に盛り付ける。好きなタイミングでお好みの調味料をかける。
※ソースを火にかけないのは、オリーブオイルと鮎魚醤の風味をそのままに楽しむためです。
※お好みで具を追加するのもおすすめです。画像のパスタを作る際には、刻んだ大根の葉と唐辛子を追加しました。
まとめ
鮎と塩だけで作られた鮎魚醤。高額ではありますが、和食・中華・イタリアンと幅広く使える上に、臭みを打ち消したり他の調味料との組み合わせが容易だったりと、このタレにしかできないことがたくさんあります。
正しく使えばシンプルレシピから凝ったディナーまで大活躍をしてくれるはず。迷っている方は、試しに購入してみると良いでしょう。